<<解説>>
夏であった。
左手の、香港上海銀行の支店長の家の構成が三段になっていて、興をそそられた。(現在はヒルトンホテルに改築されている)少々変わった建物で、これは北側だが、庭に面した南側は特長のある外観をもっていた。正面はこの絵のもう少し手前にある。
庭には石の鳥居がつくられていたが、マダムが日本びいきだったのだろうか。
ここでもマダムが絵を所望し、断ると女中をつかわし、ボーイをつかわし、遂には自家用車の運転手まで使いに来させてたのむ。断わり切れずかき始めると、主人が出張から帰って「いらぬ」と断わり、マダムがわびに来た、というにぎやかな一幕もあった。
ヘイの青さ、赤い門扉、レンガの台石、灰色のカーブした塀と、地味な色の組み合わせが気に入っていたこのあたりも、今は車の道となり、ヘイもくちてしまった。