小松益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「宴会芸とは無縁の人」の心遣い

ところで、『第一回新制作派展』打ち上げでの小磯さんの「余興」、「月なきみ空…」を歌われたことの、小松さんの記憶にもし誤りなしとすれば、小磯さんという人の、実に粋(いき)な心遣いというものが見えてくる。

小松さんのいう「賛美歌」、「月なきみ空…」というのは、実題を『星の界(よ)』といい、明治43(1910)年文部省制定の『教科統合中学唱歌集(二)』 に出てくる歌である。これは、チャールズ・C・コンヴァース作曲の賛美歌第312番の同じ曲に、明治の国文学者=杉谷代水が作詞したものであって、賛美歌とは歌詞をまったく異にする。

月なきみ空に きらめく光 嗚呼(ああ)その星影 希望のすがた

智は果てなし 無窮の遠(おち)に いざその星影 きわめも行かん

雲なきみ空に 横たう光 ああ洋々たる 銀河の流れ

仰ぎて眺むる 万里のあなた いざ棹させよや 窮理の船に

この歌詞をよく吟味すればするほど、「第1回新制作派展」の打ち上げのために、きわめてふさわしい歌だと思えてくる。なぜなら、この会派が、『帝展』改組の『文展』の腐敗堕落に抗して、「希望」と「窮理(理想探求)」の旗をまさに高く掲げた、その門出の日の歌そのままと言ってよいからである。