益喜を語る

伊藤誠 南風対談 わが青春の日々 森田修一
廣田生馬 和田青篁 父を想う

「強情っぱり」「名画は頑固の産物」

同席していた私と館次長=増田洋さんは、幼なじみの八十じいさん同士の、「泣いてたよ。」「泣くもんか。」のやりとりのおかしさに、笑い転げたことであった。

小磯良平さんを「美術界の貴公子」と呼ぶ人があるが、田中さんのような少年時代からの親友の面前では、ときに激しく頑固に我をとおされることがあったらしい。

小磯さんの親友=竹中郁さんは、海外旅行中スペインの美術館前で口論の果てなぐり合いになった「彼の絵の背後にある頑強な情熱」について、こうも記しておられる。『小磯良平君個展をひらく』という、又(ゆう)新日報 [戦前神戸にあった日刊地方紙] 昭和七(一九三二)年一月十六日の記事の一部である。

…貴様には絵は分からん、いや分かっとる。嘗つてスペインの首府マドリのプラド美術館の前で殴り合ひをした。だが私は批評しない。 然しあんなに澄ました絵をかくうちにも、殴られれば又仕返しに首を締めにくる情熱も一寸かくしてあるのだ。これは是非彼の絵を見られる時に思ひだしてほしいことなのである。